建物を雨から守るための手立てとしては、大きく分けて2つの考え方があります。一つは防水という考え方で、もう一つは雨仕舞いという考え方です。と もに雨を防ぎ、建物の雨漏りを予防するという目的については同じなのですが、雨に対するアプローチは全く異なる考え方となります。
防水という考え方は、読んで字のごとく「水を防ぐ」ということです。建築における防水の工法原理は「不透水性の材料の連続面を形成して水を透過さ せない」という表現になります。つまり不透水性の材料を用いて水を完全にシャットアウトするという考え方です。防水には不透水性材料の膜 (membrane)を防水層として用いるメンブレン防水と、部材の隙間を不透水性の充填剤(sealant)で塞ぐシーリング防水があります。防水は本 質的に水を溜めることを可能にする工法なので、陸屋根、床、地下外壁、プール、水槽などの建設には必須の技術です。しかし、その漏水防止性能はひとえに使 用する防水材料の連続性、密着性にかかっており、現場施工の場合には施工管理が鍵を握ることになります。また、防水材料には一般に有機材料を用いるため、 その耐用年数は比較的短く、長期間の使用にはメンテナンスの繰り返しが欠かせない点が短所と言えます。
雨仕舞いという考え方は、防水とは異なります。「仕舞う」という言葉の意味を調べると、「閉じる」「なくす」の他に、「片付ける」「始末する」と いう意味があります。つまり「雨仕舞い」を建築技術用語風に言い換えれば「雨水処理」になると思われます。「雨仕舞い」の工法原理は、「雨水が濡らす部位部材の形態と配置の選択によって表面や隙間の雨水を適切に処理し、不具合の発生を防ぐ」となります。
「雨仕舞い」は必ずしも漏水防止だけではなく、雨がかり防止や汚れ対策、濡れに起因する劣化の軽減などを含んだ幅広い概念です。その基本になるのは部位や 部材の形態による雨水の制御なので、たとえば外装材の目地からの雨漏り防止が目的であれば、目地の隙間を塞ぐのではなく、隙間自体の形態や寸法を風雨の作 用に対して適切なものにすることで雨水を透過させないように考えます。
このとき、雨水を隙間の内部に止めて漏らさないことが可能な雨量や風速の限界値は、隙間の幅、長さ、立上がりなどの寸法、傾斜や屈曲などの形態か ら決まってきます。すなわち、防水がいかなる風雨の条件に対しても雨漏りさせない技術であるのに対し、雨仕舞いを主体とする防雨納まりが有効性を発揮する 風雨の負荷には限界があります。
石川廣三著 「雨仕舞いのしくみ」 彰国社出版より引用